日本人の名前のローマ字の表記は、日本語通り「姓・名」の順で。河野太郎外相と柴山昌彦文部科学相が相次いでそう推奨した。長年染みついた欧米型「名・姓」の順で書く「国民の常識」は変わるだろうか。
両氏が発言したのは5月21日の記者会見だ。河野外相は、安倍晋三首相の名を例に「Abe Shinzo」と、「姓・名」の順で表記するよう海外報道機関に要請すると述べた。中国の習近平国家主席が「Xi Jinping(シー・ジンピン)」と表記されるようにアジアの首脳は「姓・名」の順で定着している。
提唱は唐突なものではない。19年前の平成12年12月、当時の文部相の諮問機関・国語審議会がローマ字表記を日本式に「姓・名」の順にするよう答申していた。
名前の形式は文化や歴史を背景に成立しており、固有の形式を尊重して紹介、記述されることが望ましいという提言だ。柴山文科相はこれを踏まえ、「周知を図っていきたい」と述べた。文化庁が行政機関などに要望していく。
国語審の提言などを受け、現行の中学の英語教科書では日本人の名前の表記について「姓・名」順で教えられている。パスポートも「姓・名」の順だ。
ただし受け止め方はさまざまで、菅義偉官房長官は「これまでの慣行もあり、考慮すべき要素が多々ある」と慎重だった。
首相官邸ホームページ(HP)の英語版は「Shinzo ABE」と姓を大文字で目立たせているものの「名・姓」順のままだ。外務省HP英語版も「名・姓」の順である。「閣内、省内不一致」では、国民が混乱する。
大相撲夏場所の表彰式でトランプ米大統領は、優勝した朝乃山英樹の名を「Asanoyama Hideki」と読み上げた。東京五輪・パラリンピックで日本選手が「姓・名」で紹介されれば、その定着が進むかもしれない。
言葉の違いを乗り越えて交流する機会は多くなっている。そこでは相互に伝統文化への理解が欠かせない。自国文化を軽視し、安易に相手の土俵にのぼることは、その妨げになると懸念する語学教育の専門家もいる。
国旗、国歌に背を向けるような自虐史観、領土について腰がひけた姿勢は侮られ、国際的信用も失う。呼称の変更は、真の国際性を考える契機ともなるはずだ。